2014年度石川賞受賞者

受賞者

大橋 弘氏(東京大学・教授)

受賞理由

2014年度の「日本経済学会・石川賞」は、イノベーション、電気事業・再生可能エネルギー、競争政策・独占禁止法・産業政策、産業分析をはじめとする産業組織論に関連した一連の研究を評価して大橋弘氏に授与する。その理由は、大橋氏が競争政策や産業組織の理論をもとにして、企業のイノベーションや貿易政策を中心に幅広い研究を行い、現代の日本経済が抱える諸問題を明らかにする顕著な業績を挙げてきたからである。

なかでも、『企業合併の経済学−わが国の鉄鋼産業における経験を踏まえて−』や『八幡・富士製鐵の合併(1970)に対する定量的評価』など、わが国における企業合併に関する研究が選考委員の間で高い評価を得た。同研究は、昭和45(1970)年3月になされた八幡・富士製鐵の合併について定量的な評価を行なうことを目的とし、水平的な合併において生じるだろう競争制限効果および生産性向上効果を勘案した上で、八幡製鐵と富士製鐵との合併を経済的余剰の観点から分析するとともに、当時の公正取引委員会において応諾された同意審決における競争回復措置が経済厚生に与えた影響を定量的に評価したものである。その研究は、従来の評価とは異なり、(1)マーケットシェアの大小に基づいて企業結合の可否を判断することの経済学的な妥当性は乏しいこと、(2)短期的な消費者余剰にのみ注視した企業結合の可否の判断は社会的な経済厚生を損なうことがありうること、そして(3)競争回復措置は社会厚生の観点から行き過ぎる可能性が排除できず、場合によっては措置を課さずに企業結合を認めた方が社会厚生の上で望ましいことがある点などが明らかにされた大変興味深い業績といえる。

また大橋氏による、貿易政策が企業のパフォーマンスに与えた影響に関する一連の研究も特筆すべきものである。特に、米国でセーフガードが発動されたことが米国企業に与えた影響を考察した"Did U.S. Safeguard Resuscitate Harley-Davidson in the 1980s?"(2009年)、輸出補助金が日本の輸出企業に与えた影響を考察した"Learning by Doing, Export Subsidies, and Industry Growth: Japanese Steel in the 1950s and 60s"(2005年)、輸出自主規制が日本の輸出企業に与えた影響を考察した"Anticipatory Effects of Voluntary Export Restraints: A Study of Home Video Cassette Recorders Market"(2002年)は、いずれもこの分野でのトップクラスの国際学術誌であるJournal of International EconomicsやJournal of Industrial Economicsに刊行されたものであり、大橋氏の業績が日本国内のみならず、国際的にも高く評価されていることを示している。

さらに大橋氏は、技術の伝搬や企業のイノベーション・技術革新に関しても精力的な研究を行っており、その成果の一部は"Effects of Re-invention on Industry Growth and Productivity: Evidence from Steel Refining Technology in Japan 1957-68"(近刊)、 "Effects of Technology Adoption on Productivity and Industry Growth" (2008年)、"Indirect Network Effects and the Product Cycle: U.S. Video Games, 1994 - 2002" (2005年)、 "The Role of Network Effects in the U.S. VCR Market, 1978-86" (2003年)などの論文として公刊されている。貿易政策に関する一連の研究と同様に、これらの研究もこの分野ではトップクラスの国際学術誌に刊行されたものであり、国際的にも高い評価を受けたものである。また、今日、わが国の民間企業の研究開発活動が停滞するなかで、大橋氏のイノベーションに関する研究が持つ政策的含意は少なくないと考えられる。

以上のように、大橋氏は、競争政策や産業組織を中心としながら、幅広い経済学の理論的ツールを用いて、常に日本の現実の経済問題を対象として、その政策対応につながる重要な研究を行なってきた。そして、その研究成果を数多くの政策提言として発表し、実際の政策に影響を与えてきた。競争政策や産業組織に関する大橋氏の実証的・政策的貢献は際立ったものであり、石川賞受賞に値するものである。

第9回石川賞選考委員会

  • 大竹文雄(大阪大学)
  • 玄田有史(東京大学)
  • 地主敏樹(神戸大学)
  • 委員長 福田慎一(東京大学)
  • 本多佑三(関西大学)

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