2013年度石川賞受賞者

受賞者

柳川範之氏(東京大学・教授)

受賞理由

2013年度の「日本経済学会・石川賞」は、『法と企業行動の経済分析』をはじめとする著書と論文に結実した契約理論を現実の経済に応用した一連の研究を評価して柳川範之氏に授与する。

その理由は、柳川氏が、契約理論をもとにして、法律と制度が企業行動に与える影響に関する理論的研究を行い、現代の日本の経済システムの問題点を明らかにする顕著な業績をあげてきたからである。また、柳川氏が日本経済に関する分析を様々な経済学のツールを用いて行なってきた点も特筆されるべきことである。柳川氏は、契約理論だけではなく、法と経済学、企業金融、国際貿易、経済成長等の幅広い分野で研究業績をあげている。さらに、柳川氏は、その研究成果を学会の中にだけに留めず、幅広い対象に還元するために多くの政策提言を行い、啓蒙的書籍を刊行してきた。

中でも、2006年に出版された主著『法と企業行動の経済分析』は,M&A,事業再生等の問題を経済学的に整理するとともに,いくつかの事例研究を行ったもので、2007年の日経・経済図書文化賞を受賞した。この本における柳川氏の手法は,企業を利害関係者の(不完備)契約の束ととらえ,外的条件となる法律や制度が契約の帰結にどのような影響を与えるかを分析するものである。制度的要因が十分に考慮されていなかった従来の企業統治理論から拡張された柳川氏の研究は、わが国の法制度の機能の解明,新しい制度設計に有益な示唆を得るものとなった。本書では、日本経済の現代的な問題が契約理論に基づいてみごとに分析されている。例えば、事業再生の分析では,会社更生法では経営者交代と債権放棄がセットになっているため、債権者が十分に経営者を交代させる権利をもたず、経営改革が遅れる可能性が指摘されている。また、金融機関の株式制限が制限されていることも経営者のインセンティブを阻害することになるため、DESが有効であることを示している。さらに、職務発明という新しい課題について契約理論による考察を加えており、従業員のインセンティブだけでなく、企業のインセンティブにも注意を促している。他に同書には、M&A、株式消却の課題に加え、法制度のエンフォースメント、政治的決定プロセスという課題まで視野を広げている。

柳川氏は、1990年代には内生的成長理論を研究し、外生的成長理論で得られた結論を覆した2つの論文は多数引用されてこの分野の基本文献となっている。また、バブルの生成に関するGrossman教授との共同研究は、外生的経済成長モデルでは厚生改善的なバブルが成長率を低下させることになり、厚生に悪影響を与えることを示した。資本所得課税が成長率に与える影響の研究に関するUhlig教授との共同研究では、資本所得課税への移行が現役世代の所得への課税を減らし、貯蓄を増やし、成長率を高める可能性を示した。また、バブルの理論的研究を進展させ、金融取引が制約された状況でのバブルの経済成長あるいは景気循環への影響をモデル分析し、バブルが過剰蓄積を防止するとともに、流動性制約を緩和する役割を持っていることを明らかにしている。

以上のように、柳川氏は、契約理論を中心としながら、幅広い経済学の理論的ツールを用いて、常に日本の現実の経済問題を対象として、その政策対応につながるような研究を行なってきた。そして、その研究成果を数多くの政策提言として発表し、現実の政策に影響を与えてきた。日本の金融契約および法と経済学に関する柳川氏の理論的・政策的貢献は際立ったものであり、石川賞受賞に値するものである。

第8回石川賞選考委員会

  • 岩本康志(東京大学)
  • 委員長 大竹文雄(大阪大学)
  • 齊藤 誠(一橋大学)
  • 澤田康幸(東京大学)
  • 樋口美雄(慶應義塾大学)

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