2012年度石川賞受賞者

受賞者

玄田有史氏(東京大学・教授)

受賞理由

2012年度の「日本経済学会・石川賞」は、『仕事のなかの曖昧な不安』、『ジョブ・クリエイション』等の著書と論文に結実した労働経済の実証研究を評価して玄田有史氏に授与する。

その理由は、玄田氏が、若年労働者の非正規就業や失業問題の研究と雇用の創出・喪失の研究の分野を中心として、現代の労働市場の構造問題を明らかにする顕著な業績をあげてきたからである。また、玄田氏の最近の研究は「希望学」という分野に広がり、学際的な共同研究プロジェクトでの中心的な役割を果たすことで、伝統的な経済学の範囲を超えた革新的な活動をしている。

玄田有史氏は、労働経済学の実証分析の分野で質量ともに優れた業績をものしているが、そのなかでも若年労働市場の分析と雇用の創出・喪失の分析が中心的な位置を占める。これらの分析を通して、1990年代後半にわが国に生じた失業率の上昇によって若年労働者の就業機会が損なわれてきたことを明らかにした貢献は、学界のみならず社会と政策現場にも多大な影響を与えたということができる。失業率の上昇当時の通念では中高年者の失業問題が重視され、若年者の失業は若者の能力や意欲の問題と見なされていたが、玄田氏は緻密な実証分析を積み重ねることでこの通念を覆して、中高年の雇用維持の代償として若年採用が抑制される「置換効果」や、不況期に卒業した世代の雇用や賃金が持続的に悪化する「世代効果」を通して、わが国の雇用システムが若年労働者の就業機会を奪ってきたことを明らかにした。

こうした知見を一般に向けて積極的に発信するとともに、研究で得られた知見に基づき、雇用機会を創出する政策の提言をおこなってきた。玄田氏の提言は実際の若年労働市場政策の形成に大きな影響を与えた。

若年労働市場の分析の研究が結実した著書『仕事のなかの曖昧な不安』は、日経・経済図書文化賞、サントリー学芸賞を受賞している。DavisとHaltwingerの手法に基づき、マイクロデータを用いて雇用の創出・喪失を分析した研究では、1998年にJournal of the Japanese and International Economies誌に掲載された論文を始め、多数の論文を発表した。これらの成果が結実した著書『ジョブ・クリエイション』はエコノミスト賞、労働関係図書優秀賞を受賞している。

わが国で生じた雇用機会の喪失は、就業を希望してもその機会が与えられない多数の若者を生み出すことになった。このような希望の喪失は、経済学だけではとらえきれない日本社会の大きな問題といえる。玄田氏の最近の研究は、伝統的な経済学の範囲を超えて「希望学」という学際的な共同研究プロジェクトに広がっていき、彼が共編著として4分冊で刊行した『希望学』に結実した。

奇しくも玄田氏は本賞が記念する故・石川経夫氏の指導を受けられた。石川氏が目指した、緻密な理論的背景と着実な実証分析で日本の経済・社会問題の解明と解決を真摯に探求する姿勢は、玄田氏の研究のなかに受け継がれているといえる。日本の労働市場、所得分配に関する玄田氏の実証的・政策的研究の貢献は際立ったものであり、石川賞受賞に値するものである。

第7回石川賞選考委員会

  • 委員長 岩本康志(東京大学)
  • 植田和男(京都大学)
  • 大竹文雄(大阪大学)
  • 齊藤 誠(一橋大学)
  • 澤田康幸(東京大学)

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