2009年度石川賞受賞者

受賞者

福田慎一氏(東京大学・教授)

受賞理由

2009年度の日本経済学会・石川賞受賞者は、『日本の長期金融』(編著)、"The Impacts of 'Shock Therapy' under a Banking Crisis: Experiences from Three Large Bank Failures in Japan," (Japanese Economic Review)、"On the Determinants of Exporters' Currency Pricing: History vs. Expectations," (Journal of the Japanese and International Economies) 等の一連の論文および書籍に結実した日本の金融に関する実証研究を評価して福田慎一氏に授与する。

その理由は、福田氏が、金融自由化で根本的な影響を受けた長期金融、問題解決が切実に求められた不良債権処理、通貨危機に頑健な通貨システムの構築など、いずれも政策課題としての重要性が高いものに焦点をあて、理論モデルから導出されたインプリケーションを、最先端の計量経済学的な手法で手堅く検証するという研究スタイルで、信頼性を高い研究成果をあげてきたことである。加えて、福田氏は、マクロ経済動学に関する理論的研究でも国際的な研究成果を挙げてきた。

詳細な理由

福田慎一氏の業績は、1995年以降から展開されている国内金融市場と国際金融市場の実証研究と、Ph.D.論文プロジェクト以降、持続的に展開されているマクロ経済動学、特に非線形動学の理論研究に大きく分けることができる。

国内金融市場の実証研究には、2つの持続的な関心が認められる。第1に、日本の金融システムにおいて長期金融が高度成長期以降に果たしてきた役割や、金融自由化による役割の変貌を厳密に検証するとともに、今後どのような役割を果たすべきなのかを展望している。当該分野の論文は、『経済研究』(1996、2003)、Journal of Multinational Financial Management (1998)などの学術雑誌や、『日本の景気』(1995)、Regional and Global Capital Flows (2001)、Financial Systems in East Asia and Japan (2004)などのコンファレンスボリュームで公刊されている。福田氏は、『日本の長期金融』(2003)でこの分野における一連の研究を編んでいる。

第2に、1990年代後半以降の不良債権処理のプロセスを分析対象としている。当該分野の論文は、『経済研究』(2006)、Japanese Economic Review (2006)、Journal of Asia Pacific Economy (2006)などに公刊されている。

国際金融市場の実証研究も、1990年代半ば以降持続的に行われているが、1997年の東アジア通貨危機を契機として、東アジア圏における通貨制度に関わる実証研究を展開するようになった。論文は、Seoul Journal of Economics (2003)、Journal of the Japanese and International Economies (2006)などの学術雑誌や、A Basket Currency for Asia (forthcoming)や『国際金融システムの制度設計』(2006)などのコンファレンスボリュームで公刊されている。

福田氏の実証分析のもっとも大きな特色は、現実の切実な政策課題をモティベーションとしているところにある。金融自由化で根本的な影響を受けた長期金融、問題解決が切実に求められた不良債権処理、通貨危機に頑健な通貨システムの構築など、いずれも政策課題としての重要性が高いものばかりである。同時に、氏がそもそもマクロ経済理論の研究者として出発しているというバックグラウンドを存分に活かして、理論モデルから導出されたインプリケーションを、進んだ計量経済学的な手法で手堅く検証するという研究スタイルが、研究論文の信頼性を高めている。

以上の3つの柱となってきた実証研究に比べると業績数は少ないが、福田氏には、景気指標に関する研究(International Journal of Forecasting, 2001など)や中央銀行の起源に関する研究(Journal of the Japanese and International Economies, 1995など)でも、優れた実証研究があることを付言しておきたい。

福田氏は、若い研究者と優れたチームを組織して、日本の実証研究のレベルそのものを引き上げることに大きく貢献してきた。また、財務省、日本銀行、政策投資銀行のエコノミストと共同して行った政策研究、特に、通貨制度に関する研究は、質の高い政策提言にもつながってきた。

先にも触れたように、福田氏の研究業績を評価する上でぜひとも言及しなければならないのは、イェール大学のPh.D.論文プロジェクト以降、マクロ経済動学に関する理論研究を現在まで持続的に行っており、そうした理論的バックグラウンドが上述の精力的な実証研究を支えてきたことである。彼の理論研究は、Journal of Economic Dynamics and Control (1989, 1991, 1993)、Journal of Monetary Economics (1993)、International Economic Review (1997)、Journal of Economic Behavior and Organization (1998, 2004)、Review of Economic Dynamics (2008)などの国際的に定評のある英文査読雑誌に数多く公刊されている。

これまで述べてきたように、福田氏の実証研究は、高度な理論研究のバックグラウンドに裏打ちされつつ、高いレベルの実証手法によって、政策的に切実度の高い課題を分析対象としている。以上の理由から、福田慎一氏の業績は、石川賞にふさわしいものと判断する。

第4回石川賞選考委員会

  • 有賀 健(京都大学)
  • 委員長 大竹文雄(大阪大学)
  • 齊藤 誠(一橋大学)
  • 本多佑三(大阪大学)
  • 矢野 誠(京都大学)

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